
【リーダーシップ開発の新常識:第3回】 リーダーの行動による影響と成果
「リーダー不足」にお悩みの経営者・人事の皆様にお届けする、全7回連載コラムの第3弾です。
今回も、神戸大学大学院教授で経営組織論、組織行動論、経営管理論を専門とする鈴木竜太氏が、前回ご紹介したリーダーシップの定義や構造を踏まえ、リーダーシップ論の歴史と広がりを解説します。
なお、本記事は書籍『リーダーシップの科学』(ダイヤモンド社)をもとに一部抜粋・編集して執筆していきます。
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リーダーがフォロワーに与える影響
フォロワーの支援・鼓舞には「複数のリーダー行動」が必要
リーダーがフォロワーに与える影響は、ある特定の行動が特定の成果に直結するといった単純な因果関係で語れるものではない。リーダーの一つの振る舞いが複数の異なる反応を引き起こすこともあれば、特定の状況下でプラスに働く行動が別の状況ではマイナスに作用することもあるなど、そのプロセスは極めて複雑だ。
リーダーが組織に変革をもたらそうとする時、多くの人は魅力的なビジョンや新しい価値観を提示することが不可欠だと考えがちだ。しかし、それ単体では人は動かない。近代看護を確立したフローレンス・ナイチンゲールは、不衛生な野戦病院の環境や男性中心の軍隊の古い慣習という壁を打ち破るため、単に理想を掲げるだけでなく、政治家との人脈を活用し、具体的な活動内容やその成果を示したデータを駆使して周囲を説得した。さらには共に働く看護師たちの信頼を勝ち取ることで、自らの活動に多くの人々を巻き込んでいった。
リーダーが真に組織の変革を成し遂げるには、ビジョンを掲げるだけでなく、その実現に必要な資源を確保し、フォロワーを支援・鼓舞するといった複数の行動の組み合わせが必要なのである。
適切に「任せる」方法
リーダーが「あえて行動しない」ことも、フォロワーに多大な影響を与える働きかけのひとつである。ミシガン大学の研究結果が示すように、業績の高いリーダーは詳細な指示を出して部下と一緒に仕事をするのではなく、権限を委譲して任せる傾向がある。仕事を任せられたフォロワーは、自身の能力に対する自己効力感を深め、将来のキャリアに対しても前向きな満足感を得ることができる。
ある百貨店の若手従業員の調査でも、人材に余裕がなく若手にも実践的な仕事を幅広く任せざるを得ない小規模な売り場の方が、育成計画通りに管理された大規模な売り場の若手よりも、明確なキャリアビジョンを描けていたという。
ただし、単に仕事を丸投げして適切なフォローを怠れば、フォロワーはリーダーの顔色ばかりをうかがって忖度する「ヒラメ症候群」に陥ってしまう。さらに、組織内で特定の人にだけ偏って権限を委譲すれば、不公平感から競争心や不安が煽られ、かえってキャリアへの満足度を下げてしまう危険性も孕んでいる。
「感情表現」という劇薬の正しい使い方
業務上の指示だけでなく、リーダーの「感情表現」もフォロワーを強く動かす要因となる。過去に慶應義塾大学ラグビー部の監督が、悲願の日本一を果たすため、あえて決勝戦前に賞状を破り捨てるという激しい感情表現があった。このリーダーとしての感情表現は選手を奮い立たせ、日本一を掴み取った。こうした事例があるように、リーダーがあえて感情の表出することがプラスに働く局面は確かに存在する。
しかし、研究によれば、怒りの表現は一歩間違えれば劇薬となりかねない。フォロワーの能力不足に対して怒りを露わにすることはリーダーへの信頼を失墜させるが、不誠実な態度に対して怒りを示す場合は、かえって信頼を高める効果があるという。また、不快な感情表現は、適度であれば組織の問題点を浮き彫りにして改善を促す効果を持つが、特定の個人を攻撃したり、問題に見合わないほど過剰に激昂して閾値を超えるとフォロワーは白けてしまい、組織のパフォーマンスは著しく低下する。
独裁的な振る舞いは悪しきリーダー行動か?
一般的には忌避されがちな「独裁的な振る舞い」でさえ、状況次第ではフォロワーに良い影響をもたらす。その条件とは、リーダーの形成する秩序にフォロワーが同意していることである。リーダーがフォロワーにリーダーとして認められている状況下では、独裁的に振る舞った方がむしろ組織に秩序をもたらし、結果として組織の業績を向上させる。
しかし逆に、フォロワー間で権力闘争が起きたり、噂話や怠慢が横行したりしている無秩序な環境下では、リーダーが強権を発動して厳格なルールを敷くと、かえって組織の心理的安全性を揺るがす。
適切なリーダーの行動は、フォロワーの置かれている状況、ひいては組織の状態によって決まるのである。独裁的な振る舞いは御法度という先入観を持っていると、逆に組織運営の改善を妨げることもあるのだ。
リーダーの行動がもたらす副作用
目標設定理論の罠
リーダーの行動は、意図した通りのポジティブな成果をもたらす一方で、時として思いもよらない「副作用」を引き起こす危険性を秘めている。リーダーシップ論の多くは、どのように優れた成果を導くかという肯定的な側面に偏りがちだが、実際の現場では、良かれと思って行った働きかけが、フォロワーの倫理観や健康を脅かす結果につながることも少なくない。
その典型例が、高すぎる目標設定がもたらす罠である。目標設定理論が示すように、明確で難易度の高い目標を掲げることは、本来フォロワーのモチベーションを高める有効な手段である。しかし、ビジネスの現場で毎期連続して過酷な目標が課され続けると、フォロワーのエネルギーは次第に枯渇していく。疲労や燃え尽き感が蓄積した結果、目標を達成するために仕事をごまかすといった非倫理的な行動に手を染めやすくなることが研究で指摘されている。
最終結果への過度な執着による悪影響
これに関連して、リーダーが業績や数字といった最終結果ばかりにこだわる意識(BLM=ボトム・ライン・メンタリティ)を持つことも、深刻な副作用を生む。結果至上主義のリーダーのもとでは、フォロワーもまたその姿をロールモデルとして学習し、結果のみを追い求めるようになる。
すると、たとえば大学の研究者ならば多様な社会的貢献を無視して論文の掲載数やランキングのみを追いかけてしまうようになり、物事の価値を一面的にしか捉えられなくなり、金銭的な利益や短期的な成果ばかりを優先する視野狭窄に陥ってしまう。仕事が単なる勝敗を競うゲームのように誤認すると、周囲の同僚をライバルとみなし、相手の足を引っ張ったり、協力を拒んだりするような殺伐とした職場環境が形成されてしまうのである。フォロワー自身が高い誠実性や自信を備えている場合はこの悪影響を受けにくいが、そうでない場合は、リーダーの過度な結果への執着が組織内のモラルを崩壊させる要因となる。
曖昧さが引き起こすフォロワーの健康被害
見逃せないのが、リーダーの行動がフォロワーの「心身の健康」に与える影響である。近年では医学的なアプローチからの研究も進んでおり、ストレスの指標となる毛髪中のコルチゾール値を測定した調査がある。一般に、フォロワーを鼓舞し組織を導く変革型リーダーシップは、職場の満足度を高めストレスを軽減するとされている。
しかし、高い理想やビジョンばかりを熱心に語り、具体的な指示やサポートを与えないリーダーのもとでは、フォロワーは「何をすべきか」をすべて自力で手探りしなければならず、その曖昧さが強烈なストレスとなってコルチゾール値を上昇させてしまうことが判明している。変革を焦るあまり役割を丸投げすることは、フォロワーの精神を追い詰める凶器となり得るのである。
変革型リーダー自身の燃え尽き症候群
副作用の矛先はフォロワーだけでなく、リーダー自身にも向かう。ナイチンゲールがクリミア戦争後に過労で長く病床に伏したように、変革型リーダーとして周囲を牽引し続けることは、リーダー本人のエネルギーも大きく消費する。研究によれば、変革的な行動をとるリーダーほど、自分自身の精神的疲労や燃え尽き症候群に陥りやすく、結果として離職を考える傾向が高まることが示されている。
特に、フォロワー側に「目標に向けて着実に努力する誠実性」や「自分ならばできるという有能感」が欠けている場合、リーダーはより強い力でフォロワーを牽引しなければならないため、その消耗はさらに激しいものとなる。
リーダーが過度なストレスを抱えて余裕を失い、不機嫌になったりイライラしたりすれば、その負の感情は瞬く間に組織全体へ伝染する。結果としてフォロワーへの気配りが欠け、組織全体の疲弊を加速させるという悪循環に陥るのである。
リーダーは目標追求や変革推進をする上で、組織に非倫理的行動や健康被害が生じていないか、そうしたリーダーシップの副作用にも気を配っていかなければならない。
(本記事は、書籍『リーダーシップの科学』の第3章をもとに執筆したものです)

鈴木竜太 氏
(神戸大学大学院経営学研究科長・神戸大学経営学部長)

『人を動かし、成果を生み出すリーダーシップの科学』
(鈴木竜太 著/ダイヤモンド社)

