
【リーダーシップ開発の新常識:第2回】 さまざまなリーダーシップ論
「リーダー不足」にお悩みの経営者・人事の皆様にお届けする、全7回連載コラムの第2弾です。
今回も、神戸大学大学院教授で経営組織論、組織行動論、経営管理論を専門とする鈴木竜太氏が、前回ご紹介したリーダーシップの定義や構造を踏まえ、リーダーシップ論の歴史と広がりを解説します。
なお、本記事は書籍『リーダーシップの科学』(ダイヤモンド社)をもとに一部抜粋・編集して執筆していきます。
目次[非表示]
- 1.4つのリーダーシップ論
- 1.1.リーダーシップ研究の歴史と広がり
- 1.2.特性アプローチ
- 1.3.行動アプローチ
- 1.4.状況アプローチ
- 1.5.価値アプローチ
- 2.フォロワーの行動を引き出すリーダーシップ
4つのリーダーシップ論
リーダーシップ研究の歴史と広がり
学術的なリーダーシップ研究の歴史は、古い常識を完全に否定して新しい理論で塗り替えるような、単純な「上書き」の歴史ではない。理系の学問であれば、過去の理論が新発見によって駆逐されることは珍しくないが、リーダーシップ論においては事情が異なる。
むしろそれは、未知の領域の地図を少しずつ広げていくような、累積的なプロセスであると捉えるべきだ。初期の研究が的外れだったわけではなく、時代の変化や研究の深化に伴ってリーダーシップを構成する新たな側面が次々と発見されてきたのである。
過去の理論が現在まったく通用しないということはなく、どの理論もリーダーシップという複雑な現象の一側面を的確に捉えている。この広がりを理解するために、「リーダーシップのどこに焦点を当てた研究か?」という観点から、歴史的に展開されてきた4つの主要なアプローチを整理していく。
特性アプローチ
第一のアプローチは、リーダーシップ研究の黎明期を支え、現在にも連なる特性アプローチである。これは文字通り、「偉大なリーダーには、生来備わっている共通の個人的資質があるのではないか」という仮説に基づく研究である。
初期の研究では、身体的特徴や社会的地位、性格など、多岐にわたる特性とリーダーシップの関連性が研究された。身体的特徴については、その後の大規模な研究によりリーダーシップとの因果関係はそれほど大きくないことがわかっている。
一方、後天的な特性についてはリーダーシップ開発において重要な要素であるため、近年も研究成果が蓄積されている。「リーダーシップの形は一つではない」という考え方もある中で、リーダーシップにポジティブな影響を与え得る特性は、完全には無視できない要素として注目され続けている。
行動アプローチ
第二のアプローチは、「行動アプローチ」である。性格などの特性は先天的な要素も多く、後天的な育成や開発が難しい。そこで研究者たちは「優れた業績を上げるリーダーは、具体的にどのような行動をとっているのか」という点に着目した。
この分野で代表的なミシガン大学やオハイオ州立大学の研究は、リーダーの行動を大きく「タスク志向(仕事中心)」と「人間関係志向(従業員中心)」の2軸に分類した。
タスク志向とは、目標設定や進捗管理、役割の明確化といった業務遂行に関する直接的な働きかけを指す。対する人間関係志向は、部下の悩みへの配慮や、成長の支援、努力に対する承認といった心理的サポートを指す。
この2つの行動軸は独立したものとして捉えられ、両方をバランス良く組み合わせることで業績が高まるという事実が明らかになった。これにより、リーダーシップは学習・訓練可能なスキルへと昇華されたのである。
状況アプローチ
第三のアプローチは、「状況アプローチ」である。行動アプローチは「理想的なリーダー行動」を特定しようとしたが、現実の複雑なビジネス環境において「いかなる時も通用する万能のリーダー行動」は存在しない。
フレッド・フィードラーが提唱したこの理論は、リーダーシップ行動の効果性を左右する変数として「状況好意性」に焦点を当てた。これは、リーダーとフォロワーの関係性の良さ、タスク構造の明確さ、リーダーのポジションパワーの程度という3つの要素によって構成されるものだ。
この変数を用いて明らかになったのは、状況好意性が極めて良い、あるいは逆に極めて悪いという極端な状況下では、タスク志向行動のリーダーのいる組織の方が成果を出しやすく、状況好意性が中程度の安定時には人間関係志向のリーダーのいる組織の方で成果が出やすくなることがわかった。
この状況アプローチは、リーダーに柔軟な行動の必要性を説くだけでなく、「リーダーが持つ特徴に合った環境や仕事にアサインすると組織成果が高まる」という組織的なメカニズムも示唆している。
価値アプローチ
第四のアプローチは、1970年代後半以降に登場した「価値ベースアプローチ」である。これは、リーダーが掲げるビジョンや価値観によって人々の心を動かそうとするものであり、カリスマ型リーダーシップや変革型リーダーシップがこれに該当する。このアプローチにおけるリーダーは、確固たる信念、強い自信、そして高い道徳感をフォロワーに提示する。例えば、本田宗一郎が日々の業績や利益よりも圧倒的な夢(価値)で技術者たちを鼓舞したように、フォロワーはリーダーが示す未来像に魅了され、自己の利益を超えて目標にコミットするようになる。この価値ベースのアプローチは、これまで触れてきたパーソナリティ、動機、特性、行動などを含む包括的なリーダータイプを示しており、その後の研究にも引き継がれている。
フォロワーの行動を引き出すリーダーシップ
時代が求めるフォロワー像の変遷
リーダーシップとは、リーダーの自己完結的な振る舞いではなく、常に「フォロワーの行動」を引き出して初めて成立する関係性の概念である。フォロワーのどのような行動を引き出すべきかは、その時代ごとの社会背景やビジネス環境によって劇的に変化してきた。リーダーシップ論の変遷を辿ることは、ある意味で「その時代がどのような人材や行動を求めてきたか」という産業史を読み解くことと同義である。
例えば、1950〜60年代のアメリカでは、大量生産・大量消費の時代を迎え、企業組織は巨大化の一途を辿った。この時期の工場や生産現場において最も重視されたのは、計画通りに業務を遂行し、逸脱なく作業を完了させることである。つまりフォロワーには「やるべきことを正確に行う行動」が求められた。この要請に応えるために隆盛したのが、タスク志向と人間関係志向のバランスを説く「行動アプローチ」であった。
しかし、1970〜90年代にかけてグローバル競争が激化し、従来の製品戦略が通用しなくなると、組織の抜本的な変革が不可欠となった。この時代には、自己利益を顧みずにビジョン実現に向けて邁進する行動が求められ、それに応じる形で「変革型リーダーシップ」などが注目を集めるようになったのである。
自律性と倫理性が求められる現代のリーダーシップ
現代においては、ビジネス環境の変化は過去に類を見ないスピードと複雑さを持つようになった。もはや一人の優秀なリーダーがすべての意思決定を下し、フォロワーがそれに従うだけでは対応が不可能な状況である。現場の担当者一人ひとりが状況に応じて自律的に判断し、主体的に行動することが強く求められている。
同時に、2001年のエンロン事件などに代表される企業不祥事の多発を受け、コンプライアンスや道徳的な振る舞いが社会的に厳しく問われるようになった。こうした背景から、近年のリーダーシップ研究は、フォロワーの主体性・自律性・倫理観・道徳観を引き出すアプローチへと関心を移している。リーダーシップ論は単なる学術的な探求にとどまらず、実際の社会ニーズを色濃く反映しながら進化を続けているのである。
新たなリーダーシップ論への批判と実践への示唆
これらの新たなリーダーシップスタイルは、現代の組織において非常に魅力的であり、有効なアプローチである。しかし一方で、これらに対する批判的な視点も存在することを忘れてはならない。一部の研究者からは、これらが過度に道徳的で人間中心主義的であり、現場のシビアな業績目標やリーダーとしての機能的役割を軽視した「楽観的すぎる理論」として揶揄されることがある。「こういうリーダーは理想的だ」というフォロワー側の感情的な好感度と、リーダーシップとしての実質的な評価が混同されやすいという危険性も指摘されている。
重要なのは、これらのリーダーシップスタイルがあらゆる状況で機能する万能の解決策ではないという事実を認識することだ。これらは、特定の文脈において用いるべき強力な道具の一つに過ぎない。真に効果的なリーダーシップを実践するためには、リーダー自身の特性や行動、フォロワーとの関係性、そしてそれを取り巻く状況的要因という全体の構造を俯瞰する視座が不可欠である。流行のスタイルを盲目的に模倣するのではなく、現在組織が置かれている環境を見極め、「今、フォロワーのどのような行動を引き出す必要があるのか」を起点に、多様な理論の引き出しから最適な道具を選択し適応させていくことこそが、リーダーに求められる真の力量なのである。
(本記事は、書籍『リーダーシップの科学』の第2章をもとに執筆したものです)

鈴木竜太 氏
(神戸大学大学院経営学研究科長・神戸大学経営学部長)

『人を動かし、成果を生み出すリーダーシップの科学』
(鈴木竜太 著/ダイヤモンド社)

