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【リーダーシップ開発の新常識:第4回】リーダーとフォロワーの相互作用

「リーダー不足」にお悩みの経営者・人事の皆様にお届けする、全7回連載コラムの第4弾です。

今回も、神戸大学大学院教授で経営組織論、組織行動論、経営管理論を専門とする鈴木竜太氏が、前回ご紹介したリーダーシップの定義や構造を踏まえ、リーダーシップ論の歴史と広がりを解説します。

なお、本記事は書籍『リーダーシップの科学』(ダイヤモンド社)をもとに一部抜粋・編集して執筆していきます。

目次[非表示]

  1. 1.状況ごとのリーダーシップの最適解
    1. 1.1.「絶対解はない」という前提に立つ
    2. 1.2.フォロワーを動かすモチベーションの構造
    3. 1.3.認識のズレが招くリーダーシップの機能不全
    4. 1.4.リーダーシップの効果を左右する「フォロワーとの関係性」
    5. 1.5.関係性の違いがもたらすチームの分断
  2. 2.求められる一貫性と柔軟性の両立
    1. 2.1.フォロワーが求める行動の一貫性と柔軟性
    2. 2.2.二面性を統合するパラドキシカル・リーダー
    3. 2.3.矛盾を乗りこなす実践的リーダーシップ

状況ごとのリーダーシップの最適解

「絶対解はない」という前提に立つ

リーダーシップという言葉の響きから、私たちは無意識のうちに「優れたリーダー個人の中に特別な力が宿っている」と考えてしまいがちだ。しかし実際には、リーダーシップとはリーダーからフォロワーへの一方通行の働きかけではなく、両者の間に生じる相互作用のプロセスとして捉えるべきものである。いくらリーダーが理論的に正しい行動をとったとしても、フォロワーとの関係性が構築されていなければ、その力は有効に機能しない。例えば、経験豊富なベテランに対して、年若い講師が教科書通りのリーダーシップ論を語っても、そこに「この若者の話から学ぶべきことがある」という信頼関係がなければ、まともな回答すら引き出せないのと同じである。

このような関係の重要性を踏まえた上で、状況に応じて適切な振る舞いを選択すべきだと説くのがコンティンジェンシー理論(状況アプローチ)である。その代表格である「パス=ゴール理論」は、いかなる時も通用する万能のリーダー行動は存在しないという立場をとる。リーダーの役割は、フォロワーが目標(ゴール)に到達するための道筋(パス)を整備することであり、その整備の方法はフォロワーの能力やタスクの性質といった「状況」によって変えなければならないとする。定型的な業務をこなす部下には「支援型」の振る舞いが有効であり、高い能力を持つ部下に細かく指示を出す「指示型」は逆効果になるといったように、フォロワーの状況を的確に見極めることが最適解への第一歩となるのである。


フォロワーを動かすモチベーションの構造

パス=ゴール理論の根底には、人がなぜ行動を起こすのかというプロセスを解き明かした「期待理論」が存在する。この理論によれば、人のモチベーションは「努力が成果に結びつく確率」「成果が報酬に結びつく確率」「その報酬の価値」という3つの要素の掛け算によって決定される。つまり、どれか一つでも欠けてしまえば、人は動機を失いかねないのである。

リーダーの立場から見れば、フォロワーが「がんばっても結果が出ない」と諦めているなら、能力開発や適切な役割分担を通じて成果獲得への確率を高め、「結果を出しても報われない」と不満を抱いているなら、正当な評価と報酬へのつながりを明示しなければならない。さらに、報酬といっても単なる金銭的対価に限らず、達成感や充実感といった内面的なものから、昇進などの他者から与えられるものまで多様である。もし成果を出して得られた報酬が、他者と比較して不公平だと感じられれば、次なる行動への期待値は著しく低下してしまう。リーダーは、フォロワーが現在どの要素でつまずいてモチベーションを下げているのかを把握し、的確なテコ入れを行うことが求められるのである。

認識のズレが招くリーダーシップの機能不全

リーダーが良かれと思って設定した報酬や働きかけであっても、フォロワーの認識とずれていればリーダーシップがうまく機能しないことがある。

あるテレビ局のスポーツ報道部長が、「オリンピックの取材」という魅力的な報酬を提示して部下の記者たちを鼓舞しようとした事例がそれを示している。
部長は過去の実績を度外視して、これからの半年の成果だけで公平に選抜しようと意気込んでいた。しかし、記者たちのモチベーションは上がらなかった。なぜなら、フォロワー側は「どうせ最終的には年功序列で選ばれる出来レースだ(成果が報酬に結びつく確率が低い)」と諦めていたり、「マイナー競技の取材にこそ情熱を注ぎたい(提示された報酬に価値を感じない)」と考えていたりしたからである。また、選ばれなかった時の恥ずかしさから、あえてやる気を見せない者もいた。この事例が浮き彫りにしているのは、リーダーがどれほど論理的で効果的だと思われる手法を用いても、フォロワーの受け止め方や現場の心理を読み違えれば空振りに終わるという残酷な現実である。リーダーシップの最適解は、リーダーの頭の中ではなく、常にフォロワーとの関係性の中に存在しているのである。 



関係性の中で生まれるリーダーシップ

リーダーシップの効果を左右する「フォロワーとの関係性」

リーダー個人の特性や行動スタイル以上に、リーダーとフォロワーの間に結ばれる「関係性の質」こそが成果を決定づけると考えるのが、LMX(Leader-Member Exchange)理論である。極論的には、リーダーがどのような振る舞いをしようとも、フォロワーとの間に良好な関係性さえ構築されていれば、リーダーシップは効果的に作動するという立場をとっている。

この理論の基盤には、「リーダーから恩恵を受けたのだから、自分もリーダーのために貢献しよう」という、互恵的な社会交換理論の考え方がある。ここでやり取りされるものは、単なる金銭的な報酬にとどまらない。有益な情報、魅力的なポジションの提供、親身な支援といったサービスから、愛情や信頼といった目に見えないものまでが交換の対象となる。特に、義務感に基づく経済的な交換関係よりも、相互の強い信頼と恩義に基づく情緒的な交換関係が築かれている状態の方が、フォロワーの自発的で献身的な行動を引き出しやすいとされている。良き関係性は相互の思考を共鳴させ、リーダーが望む成果へとフォロワーを自然に導く強力なシナジー効果を生むのである。

初期段階で決定づけられる関係性の質

リーダーとフォロワーの関係性は、公式の役割から生じる「見知らぬ関係」を出発点として、相互理解が進む「なじみの関係」を経て、最終的に深い情緒的結びつきを伴う「成熟した関係」へと発展していく。注目すべきは、この関係性の発達が、出会ってから比較的早い段階で決定づけられるという事実である。ある程度の期間を共に過ごしても「見知らぬ関係」のまま停滞している二人は、その後も深い信頼関係に発展することは滅多にないという。

この初期段階での関係構築を左右する最大の要因は、リーダーとフォロワー間の「価値観や性格の一致」である。人は自分と似た側面を持つ相手に対して本能的に好意を抱きやすい。さらに、リーダー側に協調的な性格が備わっていたり、仕事を任せる態度や倫理的な振る舞いが見られたりすることも、フォロワーからの信頼を急速に高める要因となる。リーダーは配属やチーム結成の初期段階において、いかにして相互の価値観を共有し、誠実な態度で情緒的な信頼残高を積み上げるかという点に注力すべきなのである。

関係性の違いがもたらすチームの分断

LMX理論が従来のリーダーシップ論と一線を画すのは、リーダーの働きかけを「一対集団」ではなく「一対一」のネットワークとして捉え直した点にある。リーダーが集団全体に均一な影響を与えるのではなく、一人ひとりのフォロワーと個別の関係を結ぶと考えるため、必然的にチーム内には「リーダーと関係が良いメンバー」と「そうでないメンバー」という関係性の差が生じることになる。

この関係性の分化は、リーダーに贔屓の意図がなかったとしても容易に発生する。例えば、成長を期待する若手にあえて多くの挑戦機会を与えれば、その若手との関係性は強固になる一方で、他のメンバーとの間には相対的な距離が生まれてしまう。また、付き合いの長い古参メンバーと新参メンバーの間でも、関係の深さに差が出るのは自然なことである。しかし、こうした分化が深刻化し、チームが「関係の良いグループ」と「関係の悪いグループ」に二分されると、チーム全体の一体感は著しく低下し、パフォーマンスの悪化や離職率の増加を招くことが複数の研究で証明されている。リーダーは、個別に強固な信頼を築く努力と並行して、分化によってチームを崩壊させないよう全体に公平な目配りをするという高度なバランス感覚を求められるのである。



求められる一貫性と柔軟性の両立

フォロワーが求める行動の一貫性と柔軟性

リーダーシップの最適解が状況によって変わるのであれば、リーダーは状況に合わせてカメレオンのようにスタイルを変化させるべきなのだろうか。中国の古典に由来する「君子豹変す」という言葉は、本来は時代や己の過ちを認めて鮮やかに自己を変革する立派な態度を指していたが、現代では意見がコロコロ変わる「一貫性のなさ」を示すネガティブな意味で使われることが多い。部下の立場からすれば、朝令暮改を繰り返すリーダーを信頼するのは難しい一方で、頑固に自分のやり方に固執して過ちを認めないリーダーにもついていけないというのが本音である。

リーダーシップ行動のブレに関する研究によれば、集団への貢献やフォロワーとの関係性を重視するアイデンティティを持つリーダーほど、その行動に一貫性があり、結果としてフォロワーから高い信頼を獲得することがわかっている。逆に、自分の気分や都合で日によって態度が変わるリーダーは、フォロワーの公平感を著しく損なう。ただし、威圧的で虐待的な行動をとるリーダーの場合は、一貫して虐待的であるよりも、時々穏やかになる(ブレがある)方がよいという皮肉な結果も出ている。このことから明らかなのは、単に一貫していれば良いというわけではなく、「フォロワーにとって好ましい行動が一貫していること」こそが、信頼関係の基盤になるという事実である。


二面性を統合するパラドキシカル・リーダー

しかし、近年のリーダーシップ研究では、単一のスタイルを一貫して守り抜くことの限界も指摘されている。複雑化する現代の組織においてポジティブな成果を生み出しているのは、一見すると相反する二つの行動を状況に応じて使い分ける「パラドキシカル・リーダー」である。

彼らの行動には5つの次元での二面性が存在する。
①影響力を発揮しつつフォロワーのリーダーシップも奨励する「自己中心性と他者中心性」を両立する
②公式的な役職としての「厳格な距離感」を保ちながら、個人的には「親密」に接する
③えこひいきを防ぐため「一律」に扱いながらも、各人の事情に合わせて「個別化」を許容する
④業務への「強い要求」を突きつけつつ、やり方には「柔軟性」を認める
⑤意思決定の主導権を「コントロール」しながらもフォロワーに「自律的な裁量」を与える
これらは、過去のリーダーシップ論が「どちらか一方を選ぶべきだ」と論じてきた対立概念を、見事に統合しようとする試みである。 

矛盾を乗りこなす実践的リーダーシップ

このようなパラドキシカルな行動をとるリーダーのもとでは、フォロワーは単に言われた業務をこなすだけでなく、変化への適応や役割外の自発的な行動までも積極的に行うようになることが確認されている。この矛盾に満ちたリーダーシップを実践するためには、物事の断片ではなく全体を俯瞰する包括的な思考と、異なる複数の視点を同時に受け入れる統合的な複雑さが不可欠となる。 

リーダーにとって重要なのは、特定のリーダーシップスタイルを絶対視し、それに頑なにしがみつくことの弊害を自覚することである。自らの哲学や価値観といった芯の部分では一貫性を保ちつつも、具体的なアプローチにおいては論理的な矛盾を恐れず、目の前のフォロワーや刻々と変わる状況に合わせて柔軟に最適解を選択していく。平等と個別対応、統制と解放といった両極端の要素を状況に応じて配合し、チームのポテンシャルを最大化することこそが、次世代に求められる真のリーダーの姿なのである。


(本記事は、書籍『リーダーシップの科学』の第4章をもとに執筆したものです)  

鈴木竜太 氏
(神戸大学大学院経営学研究科長・神戸大学経営学部長)

『人を動かし、成果を生み出すリーダーシップの科学』
(鈴木竜太 著/ダイヤモンド社)

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